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「TOEIC満点をとっても話せない」は本当か

2026/10/08

よく耳にする「TOEIC満点をとるまで学習を続けてもビジネス場面で話せない」は本当でしょうか。私の答えは「本当です」ですが、これだけを言うと身も蓋もありません。厳密に言うと、よく知っているトピックについて、ある程度フォーマルな会話であればTOEIC高得点者は問題なく会話ができると思います。特にノンネイティブ同士の会話では相手もそれほど複雑な言い回しをしてこないので、TOEIC満点を目指して学習をした方は、スムーズにやり取りができる場面が多いでしょう。しかし、カジュアルな表現が出てきたり、複雑な話になると力を発揮しづらくなります。その理由はTOEICの特性にあります。


TOEICの英語は美しい

TOEIC満点であっても、英語の映画やドラマでビジネスシーンを見ると、話の細かい部分がよくわからないという声をよく聞きます。TOEIC対策の書籍を出版されている著者レベルの方でもそのようなことをおっしゃっています。これはTOEICで出題される限られた表現が「美しすぎる」からでしょう。TOEICのナレーターの発音はきれいですし、表現自体もスラングっぽいものは出てきません。また、スラングとまではいかない「ビジネスシーンでは使われる表現」ですら、カジュアル寄りの表現はTOEICから排除されています。

例えば、「少々お待ちください」のJust a moment.はTOEICに登場します。「ちょっと待って」のHold on.も出てきます。しかし、実際に同僚に対して使われるJust a sec.やHang on.は出てきません。こういった、出題表現の偏りが「聞き取れない」原因であり、そして「聞き取れないから適切な応答ができない」へと繋がります。このことからTOEICの学習に限定していても、いろいろな場面で話ができる状態にはならないと言えます。


TOEICの世界観も美しい

今では絶版になってしまいましたが、『不思議の国のグプタ』(ヒロ前田・清涼院流水著)というTOEICの世界に関するおもしろい小説があります。その中で述べられているとおり、TOEICは独特な世界観で、平和で争いごとや大病、犯罪がなく、登場人物は負の感情をもちません。ところが、実社会においてはビジネスでもちょっとした揉め事もたくさんありますし、むしろそういった問題を穏便に解決する力がビジネスパーソンに求められています。

つまり「英語で仕事ができる人」に求められている交渉力といったコミュニケーションスキルはTOEICで測る力のスコープ外なのです。TOEICはあくまでも基礎英語力があるかどうかを測るだけであり、戦略的に言葉を使ってビジネスを動かす力は測れません。英検1級やGCASといった英語試験では面接委員相手に議論するので、そういった試験対策をしていれば、自分の意見を否定されてもプロフェッショナルな威厳を保ち、理論的に別の観点から意見を伝えることに慣れますが、TOEICにはそういった側面がありません。これも「TOEICで満点をとっても話せない」と言われてしまう理由の1つです。


これらの理由から、残念ながらTOEIC「だけ」を学んで満点をとっても、どんな場面でも活躍できるグローバル人材になれたとは言えないでしょう。「きれいな英語を100%理解できるようになる」というのは英語学習の第1ステップとしては適切ですので、「まずはTOEICで学習をスタートする」のは非常に良いことです。ただ、それに加えて、ドラマなどの疑似的なものでリアルな英語を聞き、自分ならどう応答するかを考えて練習することが大切です。


江藤友佳

コロンビア大学大学院ティーチャーズカレッジ修士号取得。外資系コンサルティングファーム勤務を経てから株式会社アルクと楽天株式会社にてビジネスパーソンの英語教育に従事。さまざまな英語スピーキング試験の試験官資格を有する「英語力評価」の専門家。著書に『ロジカルに伝わる英語プレゼンテーション 』などがある。

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